今なぜファシリテーションなのか?

 

最近日本の企業内でもワールド・カフェ、OST(オープンスペース・テクノロジー)、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリ)、フューチャーサーチ等のファシリテーションの手法によるダイアログ(話し合い)の機会が増加してきている。特に、NPOやコミュニティー活動の場では一般化し、参加者全員から忌憚のない意見や考えを述べてもらい創発的な意見交換の場から新しい価値を創造しようとする試みである。

丁度一年前にASN(アショカ・サポート・ネットワーク)のロンドン国際会議に三日間出席したことがあるが、その場では全てのミーティングが最初に簡単なプリゼンター(講演者)はいるが、問題提起された話題に誰でも自由に参加し、自分の意見を述べることのできるワールド・カフェ方式の話し合いの連続であった。意見交換された話題は小グループのホストが大きな紙に手書きで書き加え、毎日夕刻には何枚もの大きな紙が張り出され、意見集約の様子が一目で見えるようになっている。

日本では従来から学校教育の場でも意見発表や議論・討論の機会が比較的少なく、国際会議のような場所での日本人の発言は少なく、控えめを「徳」としてきた。もっとも最近の若者はそうではないかも知れないし、企業の人事部等はファシリテーションの手法を取り入れ、創発的な発想を大切にしてきているので、現役のビジネスパーソンは意外にこれらの手法に明るいのかも知れない。しかしながら、我々シニア世代の人たちはこのような経験を積んでいない。

今回のNPOプラチナ・ギルドの会の会員総会の後、ワールド・カフェ方式の話し合いの機会を計画しているのはこのような理由からである。話し合いの手法についてはファシリテーターから事前に、手法やルールを書面で、また、会合の前には口頭でコーチングすることになってはいるが、ここでは「今なぜファシリテーションなのか?」について簡単に触れておきたい。先ず、ディスカッション(議論)とダイアログ(話し合い)の違いは何か?「創発とは何か?」について見ておきたい。

ディスカッションとダイアログの違いを、その前提、態度、目的、聴き方、主張、結論等の面から比較してみると、前者は正しい答えがあるとの前提、後者は誰もがいいアイディアを持っているとの前提、また、態度では前者は戦闘的であるに比し、後者は協力的で共通の理解を目指している。目的を考えると、前者は勝つことにあるし、後者は共通の基盤を探すことにある。聴き方では、前者は相手の弱点・欠点を捜し反論するのに比し、後者は理解しよう、意義を見出そうと相手の話に耳を傾ける。主張では、前者は自説の正しさを、後者は良く理解する機会ととらえる。結論では、前者は自分の立場を是認するようなものを、又後者は打ち切りを求めず、新しい選択肢を見いだす。

これまでの産業社会の在り方は自分と他人、人と自然、人と組織、企業と消費者のような二元論的な見方が多く、自分と他人との関係性を見ると相手に自説の正当性を主張するディスカッション(議論)の能力を評価してきた。同様にその他の関係性もどのように相手をコントロール(制御、征服)することに重点が置かれてきた。しかしながら、例えば、
「企業と消費者の関係」を見ても広告や宣伝で消費者の意識・行動に変化を与えるマーケティングの手法も、情報技術の革新や生活水準の向上、人々の自立欲求の高まりから大きく変化している。いわば、コントロールからコラボレーションの時代へと変わってきている。

人々の相互依存関係はますます広がりを深め、複雑性を増している。知識の“賞味期限”はどんどん短期化し、「教える」から「学ぶ」へのパラダイムシフトが生じている。ビジネスを取り巻く環境変化はあまりにも急激で、過去の経験則からは適格な方向性を見出すことが出来ず、企業内での「指示命令」によるマネージメントからダイヤログやコーチング、ファシリテーション等の新しい形のコミュニケーションや関係性の在り方が求められている。

(株)日本総研には設立時から「創発戦略センター」なる組織を持ち、複雑系を研究すると同時に、環境やエネルギー等の新しい産業創造のために、異業種に呼びかけ、創発とインキュベーション(孵化)による起業戦略を模索してきた。NPOや市民活動の分野での創発的な活動は今後とも益々重要になってくる。特に社会の変革に新しいビジネス・モデルを創出し、チャレンジしようとするソーシャルベンチャーにおいては、偶発的に、電気ショックのように発生するイマージェンス(創発)の手法を利用することが必要である。次回のワールド・カフェに大いに期待したい。