「本格的な働き手の減少に備えて」

今回はこの度プラチナ・ギルドの会の趣旨に賛同し入会された、株式会社 日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 藤波 匠さんに特別寄稿頂きました。著書に「人口減が日本を強くする」、「”北の国から”で読む日本社会」

昨今、どの企業経営者にとっても、人材確保は頭が痛いところです。人手不足と言われて久しい状況にありますが、特に地方で深刻な状況にあるようです。

しかし、足もとまでの人手不足は、好景気によるところが大きく、人口や労働力が減ったことが主因ではありません。実は、働き手の減少はこれからが本番であり、人手不足は一層深刻化することが見込まれます。

2019年に二十歳となった新成人は122万人でした。少子化がすっかり定着し、人手不足が喧伝されたことから、新成人の数は毎年大幅に減っていると考える人も多いことでしょう。調べてみると、意外なことにこの10年間、新成人の数は120万人台で推移し、ほとんど減っていないのです。

その理由は、この10年間に新成人となった世代が生まれた1990年代が、ちょうど団塊ジュニアの出産適齢期に当たったためです。団塊ジュニアは、団塊の世代の子どもの世代にあたり、人口規模がその前後の世代に比べて明らかに多くなっています。彼らは、就職氷河期の走りで、晩婚化の流れもあり、ベビーブームを形成するには至りませんでしたが、急速に進んでいた少子化の流れを一時的に押しとどめる役割を果たしたと考えられます。

すなわち、過去10年に限れば、若い労働力は毎年一定数社会に出ていたのです。しかも、近年は高齢者や女性の労働参加が増え、また外国人労働者の流入もあり、労働力人口が大きく減ったことはなく、ここ数年に限れば逆に増加傾向にあります。

特に女性の労働参加は顕著で、すでにわが国は、アメリカやフランスの労働参加率を上回る水準にあります。以前は、出産と育児のために女性が仕事から離れることにより生じていた女性の年齢別労働参加率のM字カーブが、ほぼ消滅しています。

ここまで人手不足が声高に叫ばれてきましたが、これは好景気によるところが大きく、わが国の人口構成という構造的な問題の影響はまだ限定的であったことになります。近年、地方から若い人の流出傾向が強まっていますが、これは好景気を背景に、東京などの大都市の大手や外資系の企業が好条件で人材確保に走った影響もあったでしょう。

しかし、追加的な労働供給が期待できるのも、今年限りかもしれません。働き手の数はピークアウトし、いよいよ減少局面に突入するからです。女性や高齢者の追加的な労働供給余地は限られています。また、過去10年ほぼ横ばいで推移していた新成人も、いよいよ来年以降は再び減少局面に入ります。2000年に119万人あった出生数は、2016年には100万人を割り込み、2019年には86万人となりました。それは、ほぼそのまま20年後の新成人数となります。残る希望は、外国人労働者ですが、現在の入国者数の規模では、労働力人口の減少を補うことは到底できません。

これまで人が採れなかった業界や若い世代の流出が止められなかった地域は、今後一層深刻な状況に直面することになるでしょう。地方はより深刻です。すでに大企業は、若い世代が減少しても、優秀な人材を確保できるように、雇用条件の改善や働き方改革に力を入れています。中小企業が多く、そうした余力のない地方では、深刻な人手不足に直面することになると考えられます。政府の地方創生戦略は、地方に雇用を創出することを目指しましたが、いま求められているのは、雇用の数ではなく質の高い雇用ということになります。

東京、地方を問わず、また大企業、中小企業を問わず、これからわが国が考えていかなければならないのは、より少ない人材の投入で、より多くの富を生み出すことです。イノベーションの成果をしっかりと取り込み、効率的な社会を作っていかなければなりません。

典型的な例が、介護産業です。介護は労働集約的な産業で、人手不足の最前線といえるでしょう。介護現場の疲弊と余裕の無さが、介護担当者から、最も大切な“笑顔”を失わせているのではないでしょうか。

こうした産業でこそ、イノベーションの導入は不可欠です。筑波大学の落合陽一准教授の弁によれば、介護士の労働時間の15%は車椅子を押している時間ということです。例えば、介護対象者をベッドから起こし、車いすに乗せ、検査室までの移動を無人で行うことができれば、介護士の負担を大きく減じることができるはずです。

今後、長期間にわたり働き手が大きく減ることが確実なわが国では、企業の立地、業種を問わず、待遇の改善を図り、働き手が笑顔で働ける環境を整備していかなければなりません。そのためにイノベーションをおこし、将来を見据えて生産性向上を図る設備投資をする組織・企業が求められているのです。

今後、当会では「企業版ふるさと納税」を活かした「地方創生」や地域包括ケアシステム構築に向けた「保険外サービス」=有償ボランティアの仕組みなどについても提言し・取り組んでまいります