「私たちからの提言(アドボカシー活動)」カテゴリーアーカイブ

「三方良しの企業内シニア・キャリア研修」

 
本日と一昨日は大手情報会社のN社、11月9日は大手カード会社のM社の社内研修に講師として招かれました。12月にはメガバンクでの同種研修も計画中です。プラチナ・ギルドの会は外部の研修会社とコラボしながら、今後とも価値ある企業研修を提案してまいります。

 産業構造の変化、労働力不足、AI・ロボットの進歩、働き方改革、生産性向上、定年延長等などと時代の変化は、企業、個人、社会の全てのセクターが大きな曲がり角に来ているように思えます。リンダ・グラットン教授の「ワーク・シフトー100年時代の人生戦略ー」は日本人の「仕事と人生のあり方」に大きな衝撃を与えています。

 超高齢社会(健康・長寿社会の到来)とともに、これまでの単線的な人生戦略(就学、就職、定年)から、より高度の仕事を目指すための自己投資(リ・クリエーション)を含めた複線的な活動と専門性なキャリア戦略が重要になってきます。

 定年が65才に延長され、今また更なる延長まで議論されています。民間企業にとってはコスト増になる一方、労働需給のひっ迫から優秀な人材確保も無視できません。社内の活性化のため「役職定年」を導入するところも増え、シニア人材にとっては賃金カットと意欲喪失から生産性の低下をきたしています。一方、日本の社会的セクター(NPOなど)は、自治体などの公的セクターのサービスを補完しようにもまだまだ未成熟で資金も人材も大幅に不足しています。

 このような社会の変化に対応すべく、企業はミドルからシニア社員にキャリア研修を積極的に実施し、社員の意欲付と第二の人生に向けての自律を促しています。一方、社員から見ても労働市場の流動化は人生設計の複線化に繋がります。リ・クリエーションを通じ、より専門性の高い分野のスキルを有し、絶対的な強み(エッジ)を持つ人材へのニーズは強くなります。

 また、社内・外にネットワークを持ち、社会との関わりの強い人材は新しいニーズに対しても鋭敏で、社内のイノベーションの源泉にもなります。そのような意味で働きながら社会的セクターでプロボノや、ボランティア、社会貢献を経験することは、自分の仕事の進め方や、創発的な発想を豊かにすることにも通じます。

 プラチナ・ギルドの会はこれまで実施してきた「プラチナ・ギルド アカデミー」の経験を活かし、「50才にもなれば社会貢献を!」を旗印に、働きながら地域やコミュニティーとの関りを持ちながら、「次の」自分を見つける旅を支援します。広く外部の研修会社とも協力して、企業内キャリア研修に、企業、個人、社会の「三方良しの研修」を広めてまいります。

 短期間のキャリア研修でこれまでの自分のありかたを変え、「次の」自分を見つけることは困難です。その意味で、セミナーでの「気づき」を実践するためにプラチナ・ギルドの会は毎月の例会の場を企業の社員に開放し、共に学びを深めたいと考えています

「ソーシャル・キャピタルと経済」第二章、日本企業と高齢者が果たすべき役割


今般、「ソーシャル・キャピタルと経済」―効率性と”きづな“の接点を探るーと題してミネルバ書房より叢書「ソーシャル・キャピタル」第三巻が発刊されました。
全体の編者は大守隆(本出版企画時は東京都市大学教授)で大守先生と関係のある、研究者や企業関係者10名がそれぞれの関心の深い分野を担当しました。
私は東京都市大学・社会人講座で講師としてお招きお頂いた経験もあり、自ら立ち上げた認定NPO法人プラチナ・ギルドの会の設立趣旨に関係のある「日本企業と高齢者がはたすべき役割」について第2章で担当しました。本出版は全体的に学問的な観点からアプローチされており読みづらい点はありますが、第2章は、ボランタリー経済の歴史等を除けば、きわめて具体的で、日本のソーシャル・セクターの問題点や今後の同セクターの活性化のための提言を含んでいます。また、日本企業や高齢高齢者のこれからのあり方についても、筆者の忌憚のない提言を含んでいます。是非ご関心のある皆様にはご一読の上、ご批判頂ければ幸甚です。尚、当初の企画から出版にいたるまで、処々の理由で時間が経過しているため、今回、一部追加したところがございます。

第2章 日本企業と高齢者がはたすべき役割

1 はじめに
ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)のこれまでの議論は抽象的で分かりづらいものも多いが、本章では、ビジネスの第一線を離れた後、NPOや社会起業に関りを深めてきたという立場から、具体例を踏まえつつ筆者の考えを述べてみたい。また、第3章では市民の活動や社会的起業について広く論じているが、筆者の在英経験が長かったことからイギリスの福祉政策の動向や最近の事情などについては本章で論じることとした。
ソーシャル・キャピタルはこれまで“経済学”にはなじみの少ない分野であった。ソーシャル・キャピタルの概念が必ずしも明確でなく、計測も困難であること、ソーシャル・キャピタルというとらえ方でどのような新しい付加価値が期待できるか不明確なこと、概念が不明確なままに厳密さに欠ける議論も多く見られてきたこと等から経済学者に好まれる用語にはなっておらず、懐疑論が多い。(大守2011;55)
しかしながら、ソーシャル・キャピタルを分かり易く、人々が他人に対して抱く「信頼」、それに「情けは人の為ならず」「お互い様」「持ちつ持たれつ」といった「互酬性の規範」、「人や組織の間のネットワーク(絆)」と市場では評価しにくい価値であると定義することもできる。(稲葉2011:1)
本章では、そのような観点から、まず第2節でボランタリー経済とその系譜についてみることとする。自由主義市場経済の理論は人々の利己的行動を前提にしている。一方、市場の失敗、経済のグローバル化と知識産業化による所得格差の拡大、政府の失敗とガバナンスの問題等から、NPOやコミュニティーでの支え合いを中心とするボランタリー経済の台頭が重要性を増している。
そこでソーシャル・イノベーションの台頭や、日本を取り巻くNPO界の状況を見てみよう。
第3節では高齢社会を迎えた今、日本が活力を維持し明るい未来を展望するために検討すべき課題について考察する。特に企業社会が貢献できる分野について若干の個人的な取り組みと見解について付言する。
第4節ではイギリスにおける福祉政策の歴史的変遷と最近の動向について検討する。ボランティアやチャリティーの歴史は、日本とイギリスでは異なっているが、日本の政府や自治体中心の福祉政策のこれまでの在り方は、アメリかよりよりイギリスの事例により強い相関が見られ、イギリスの事例は日本が今後目指すべき方向に示唆を与えると考えられる。特に保守党党首・デービッド・キャメロン率いる連立内閣が打ち出した「大きな社会」構想は今後の我が国にとって参考になると思われる。
第5節では前節で見たイギリスの「大きな社会」構想を念頭に、日本の人口動態、長寿社会を迎えて、企業社会、個人のあり方もまた大胆な社会変革に向かって挑戦すべきとの説を展開する。

2 ボランタリー経済とその系譜

(1)ボランタリー経済の定義と我が国におけるソーシャル・キャピタルの調査
 経済の領域において、ボランティアやNPOなどが果たす役割が大きくなってきている。このように、個人の自発的な参加と人的つながりがベースになって成立している経済システムは、一般的にボランタリー経済と呼ばれる。そこでは、市場においても流通可能な財やサービスが、無料あるいは低価格で提供される。このシステムは、政府による「公的サービス」、市場を通じた民間部門による「私的サービス」に対して、市民活動による「共的サービス」の領域と位置づけることができる。
 こうしたボランタリー経済は、何らかの形でコミュニティー(地域)が基盤となって成立している。代表的な例としては、地域の中だけで流通する地域通貨や、インターネット上のコミュニティーにおける情報の交換、流通といったものが挙げられる。ボランタリー経済の特徴としては、自発性、相互性、情報性、開放性、多様性、フラットなネットワーク型構造、自生的秩序、柔軟性などが指摘できる。個人の自発的な参加に基礎を置き、コミュニティー内で相互に利益を与え合うことで成立している。また、その組織形態は、非常にゆるやかで柔軟な構造をもったネットワーク型のものである。
 ボランタリー経済においては、財やサービスの提供者が得る経済的利益は市場を通じた場合に比べて小さくなるために、自己利益以外の動機が経済活動の推進力となっている。その動機としては、利他性、自己実現、他者からの尊敬の獲得、参加意識、連帯意識などが考えられる。
 今後も経済システムの中心は市場経済に置かれるが、ボランタリー経済はそれを補完する役割をますます強めていくものと思われる。ボランタリー経済がうまく機能するかどうかは、コミュニティーの構築とその内部における相互の信頼性の醸成にかかってきている。即ち、ソーシャル・キャピタルは第1章で述べたような分かり易い稲葉の定義に従えば、市場経済を種々の理由で補完するボランタリー経済を支える基盤であるともいえる。この点、藻谷ら(2013:117)も、マネーに依存しないサブシステムも同様な概念をあらわしていると考えられる。
 ここで簡単に(株)日本総合研究所が2007年8月に実施した全国アンケート調査に触れておきたい。ソーシャル・キャピタルに関する既往の調査としては山内直人の「都道府県別市民活動インデックス」(2008年)や、内閣府によるアンケート調査(2003年)があるが、これらは一時点での把握である。これに対してこの調査(「日本のソーシャル・キャピタルと政策」[2008年])は、2003年、2005年の内閣府の調査を参考に経年変化を独自に分析している。その結果として、2003年から2年ごとに見た、近所付き合いの推移(付き合いのある人の比率)は48,8%、48%、45,2%と低下している。また、社会的な交流の推移では、友人・知人の職場外での付き合いの頻度は低下している一方、親戚との付き合いは微増傾向、スポーツ・趣味・娯楽活動への参加状況は増加してきている。社会的な活動状況では地縁的な活動が大幅に減少している一方、ボランティア・NPO・市民活動への参加状況は8,9%、12,5%、9,0%、と基調的な変化は見られない。その後の状況は不明である。東日本大震災後の人々の意識変化や、益々進行する都市部や地方でのコミュニティー崩壊という状況の中で、ボランタリー経済の動向には注意を要し、経年変化を継続的に調査する意義はますます重要になってきている。

(2)ボランタリー経済が注目を浴びる背景
市民社会の形成過程は各国における歴史的、社会的、文化的要因が関係する。チャリティーやボランティアの文化は宗教的な背景にも依存するが、我が国ではボランタリー経済のGDPや総雇用数が経済全体に占める比率は少なくともこれまでは欧米比低水準にあった。しかしながら、1995(平成7年)1月17日の阪神淡路大震災後にNPO法(特定非営利活動促進法)が施行され、KNOTの総数は急増してきた。また、2011(平成23年)3月11日の東日本大震災の未曾有の国難に直面し、市民社会の支え合い、「絆」の重要性が大きく認識されてきている。
東日本大震災における津波や福島原発事故の恐怖と悲惨さは今なお癒えない。震災直後に国内・外から多くのボランティアや義援金が寄せられたことや、大災害にも拘らず、秩序ある整然とした支援活動がなされ、被災者間でもお互いが寄り添い、助け合ってきた事実は日本社会において手厚いソーシャル・キャピタルの存在を物語っている。これらの不幸な経験を契機にして、日本の市民活動が活性化し、市民社会の成熟に大きく資することになるであろう。
翻って、ボランタリー経済が拡大し注目を浴びてきた背景をみると、行き過ぎた新自由主義経済政策や、市場や政府の失敗、経済のグローバル化と知識産業化による所得格差の拡大、ガバナンスの欠如などから市民の手による「共助」の概念が補完的に広がってきているものと考えられる。ソーシャル・キャピタル論は各方面からの学際的領域として研究されてきたが、同時に最近では実務者たちによっても重要な分野として注目されている。政治の世界では左右両派から注目され、ビル・クリントンやトニー・ブレアの中道左派の政治家たちは「第三の道」を求めて政府機関を肥大化させることなく社会問題の解決に挑戦した。また、保守派は家族、宗教心、伝統的価値、同胞愛を基盤に「思いやりのある保守主義」を展開し、ソーシャル・キャピタル論に着目している。

(3)小さな政府と大きな市民社会
 1960年代から70年代にかけて、日本を含む多くの先進民主主義国ではケインズ的な福祉国家体制の下、政府による積極的な公共サービスの提供、市場規制、社会福祉政策が展開された。ところが石油危機以降の低成長期を迎えることになった70年代後半に入ると財政赤字の拡大、政策課題の多様化・複雑化、少子高齢化、経済のグローバル化、住民ニーズの多様化から従来型の福祉国家体制は行き詰まりを見せることになる。経済の活性化を旗印に市場原理を重視した新自由主義が民主主義国家の目指す目標となり、規制緩和、民営化、小さな政府が国家財政の立て直しのため標榜されるようになった。
公共投資が減少した一方で、民間資金によりファイナンスされるPFI(Private Finance Initiative)やPPP(Private Public Partnership)が重視されるとともに、市民の自発的組織(NPO、NGO)への期待も高まった。ガバメントから市民団体によるガバナンスへと公共領域の担い手に変化がみられてきた(詳細は坂本[2010:46-49]参照)。

(4)ボランタリー経済の変遷
先ず、日本のNPOの現況を見てみよう。内閣府のNPO統計によればhttps://www.NPO-homepage.go.jp/(2014.6.2) 2014(平成25年)5月23日時点で、認証法人数は49,042社、また認定法人数は418社(内認定、284,仮認定、134社)となっている。2013(平成24年)4月から寄付税制が変更された後、認定NPOの数は急増している。また、認定NPO法人の増加に伴って今後徐々に寄付文化が定着することが期待されている。
一方、NPO法人の収入を見ると65%のNPO法人法人は年間収入5百万円以内の脆弱な基盤にあることが分かる。また、内閣府は国民のボランティア活動への意識調査や参加実績調査の興味深いサンプル調査も公表し情報公開を進めている。総務省も地方自治体に更なる情報公開を求めていることから、インターネット上で国や自治体が保有する情報の公開が進めば、ボランタリー経済、市民社会の活動状況の実態が判明し理解が深まることになる。市民社会の活動領域が拡大し「公助」を補完する「共助」領域が拡大することは、公的債務が増加を続け、財政負担に苦しむ我が国にとっては望ましい社会の変革である。
内閣府KNOTホームページや、国・都道府県公式公益法人情報サイト
等を通じ国や、自治体の公益政策に関する情報公開が更に進展することを期待したい。
前述のように、東日本大震災を機に我が国におけるボランタリー経済の領域は更なる拡大の方向にある。但し、この動きを加速化させるためには、ボランタリー経済を支える公共部門の支援や教育制度等を含む社会インフラの充実が急務である。さらに言えば、特定非営利活動法人NPO支援センター、公益社団法人日本フィランソロピー協会、NPO法人シーズ・市民活動を支える制度を作る会等のアドボカシー(政策提言活動)や中間支援型NPOの存在と活躍がボランタリー経済を支える「共通インフラ」として重要であり、更なる質・量面での充実が期待される。
筆者が特別顧問として関わっているNPO法人サービス・グラントは中間支援組織として、新しい形のボランティアの在り方を提案してきた。同社が展開するプロボノ仲介活動は、ビジネスの世界で培った専門知識(スキル)を利用した付加価値の高いサービスとして注目されている。プロボノとはビジネス世界で培った専門知識(スキル)を利用した社会貢献のことである。2017年6月現在、同社に登録されたプロボノ・ワーカーは設立以来、3,404名、累積プロジェクト数は499件に達している。詳細はサービスのホーム・ページを参照されたい。
このようなビジネス・モデルが社会変革に与える影響は単にボランティアの側面だけでなく、企業とNPOの両組織間で相互に働き方の違いを学ぶことによって、個人が社会的意識を向上させることが出来る点でも注目に値する。この団体では、企業の社会教育の一環として「プロボノ価値共創プログラム」としてサービスを提供している。また、東京都(東京ホームタウン・プロジェクト)や大阪府(大阪ええまちプロジェクト)が進めるプロボノ活動で地域内のNPO基盤強化を図り、地域包括ケア推進の一環として、地域インフラ強化のための事務局を務めている。
               
(5)社会的企業の台頭とソーシャル・イノベーション
欧米を中心にしたソーシャル・イノベーション、即ちビジネスの手法を活用して、増大する社会の諸課題に挑戦し、社会の変革を試みる動きが、近年世界的なうねりとなっている。特に欧米では、優秀な新卒者は社会的企業に直接就職する人も多く、例えば、Teach for Americaは一般企業を押さえ、アメリか新卒文系学生の人気企業となっている。日本でも、病児保育のビジネス・モデルで成功した認定NPO法人フローレンス(代表:駒崎弘樹氏)、ワンコイン診療で医療費削減にチャレンジするケアプロ株式会社(社長:川越高志氏)、留職プログラムで大企業の若手社員を教育する、NPO法人クロスフィールズ(代表理事:小沼大地氏)等の成功事例は特筆に値する。
社会的企業により社会変革を支援する例として、ここではワシントンに本拠を置くアショカ・グループについて記しておきたい。アショカの組織は1981年にビル・ドレ―トンにより設立された。社会変革の仕組みを研究する世界最大の社会起業家支援ネットワークである。世界各地に拠点を持ち、財団から資金支援を受け専業で社会変革にチャレンジするアショカ・フェローが3,500名(2018年7月同財団ホームページ)活動している。また、2011年にはアショカ・日本が設立されている。筆者は2013年にロンドンで開催された第二回ASN・アショカ・サポート・ネットワーク国際会議に参加した(第一回2012年は米国マイアミ、2014年はパリで開催)。各国から参加した、アショカ職員、アショカ・フェロー、アショカ・サポーター(専門分野支援や各国のアショカ団体への資金協力者たち)などの活発な議論を見て大変触発された。多岐にわたるアショカの諸活動の中で、筆者の関心は、経済発展途上にあり、今後大きな消費市場になる可能性を秘めた、中国を含むアジア諸国や、インド、アフリカ、中南米諸国等でのBPO(Base of Pyramid)ビジネスにある。BPOのビジネス・モデルはアショカの組織内部ではハイブリッド・バリュー・チェーンと定義されており、企業社会とのコラボレーションによる低所得・低開発地域での生活水準改善と雇用の増大を目的にしている。特に、今後とも人口増加の著しい開発途上国では、多くの国民は年間所得3000ドル以下の生活水準を余儀なくされている(世界中では全人口の72%、40億人といわれている)。これらの地域では、単に外部から金銭的援助を受けるのではなく、自ら所得を得るために、生活の糧としての雇用創出による自立が重要である。
アショカ・フェローたちは、世界各地で生活の糧を得るための”魚の釣り方”を指南し、社会の在り方を根本的に変革すべく、チェンジ・メーカー(社会の変革者)として挑戦している。一方企業側から見てもBOP市場は将来の潜在的に巨大な顧客層でもあり、企業の社会的責任(CSR)の観点だけでなく、将来市場への先行投資の観点から熱い目を向け始めている。「公益資本主義」なる考え方を広めた、原丈二は早くから事業により途上国の貧しさを解決する手法に着目してきた。原丈二(2013)「増補21世紀の国富論」201ページ

3 変貌する高齢社会とソーシャル・キャピタル

(1)超高齢社会の予測
まず、日本の高齢社会の状況と今後の予測についてみておきたい。2017年10月1日時点の日本の総人口は1億2,671万人、65歳以上の高齢者の人口は3,515万人(全人口に占める割合は27,7%、内男性、1,526万人、女性、1,989万人)、前期高齢者(65-74歳)の人口は1,767万人(13,9%)、後期高齢者(75歳以上)の人口は1,748万人(13,8%)となっている。総人口が9,284万人に減少する2060年には、高齢者の比率は38,1%、後期高齢者の比率は25,7%,一方、生産年齢人口(15-64歳の人口)は2016年には7,596万人(60,0%)であったものが、2060年には4,793万人(51,6%)と約2,803万人減少する。日本の総人口、生産年齢人口は既に2010年から2017年の間で、それぞれ、135万人、507万人減少している
超高齢化とともに、医療の発展と生活水準の向上から長寿社会の到来が同時に予測される。近年、実質定年が60歳から65歳に延長されたが、健康で意欲と能力ある高齢者が生涯現役として働くことの出来る慣行を目指すべきであろう。また、社会問題としては一人住まい世帯の増加傾向、孤独死の問題や、早晩、「多死時代」の到来も予想しておく必要があろう。
2025年には、年間250万人の死亡が予測されている。今は病院で看取られるのが一般的になっている終末期の医療は病院不足と費用負担の観点から、かかりつけ医師による自宅での医療体制に移行せざるを得ない。また、医療保険と介護保険とを一体的に管理する体制も検討する必要がある。健康、介護、医療等、生涯にわたる健康づくり、認知症支援政策、地域における持続的在宅医療や介護、高齢者の社会参画、学習、バリア・フリーで高齢者に優しい街づくり、次世代交通システムの構築等検討すべき課題は多い。日本の高齢化問題は近い将来のアジア諸国のモデルになりうるが、そのためにも今後各種の社会制度の変更と整備が必要となってくる。
一般的に人口動態の変化のスピードが速い国において社会制度の対応が遅れ、制度の歪みから社会課題を拡大する傾向がみられる。我が国の年金制度の問題点などはその典型的な例である。人口全体に占める65歳以上の比率を「高齢化率」と呼ぶが、7%(1970年)から14%(1994年)に達するのに日本ではわずか24年と西欧先進国に比べ著しく短い。近隣アジア諸国では、中国で25年と日本と同様であるが、シンガポールで20年、韓国では18年と更に短くなっている。
労働人口のピークは1998年であったのに対し、韓国、シンガポール、香港、中国は2015年に、タイでは2020年、インドネシアでは2035年と見込まれ、近隣諸国においても高齢化問題は今後深刻さが増すことになる。日本の定年制度は80年代に徐々に55歳から60歳定年に移行し、現在65歳への延長が進んでいる。2013年4月には韓国で、最近インドネシアでも60歳定年への移行が法制化され、その他のアジア諸国でも同様の動きがみられる。特に一人当たり所得の比較的低い地域や、年金制度、医療保険制度等が不十分な地域では高齢化がもたらす社会問題はより深刻さを増す。今後、日本で取り組まれる高齢化社会が直面する社会課題への挑戦は、アジア諸国への道標となるであろう。

(2)人口減少による、生産年齢人口の減少
 生産年齢人口の減少については前述の通りであるが、移民受け入れ政策と、
女性労働力の活用、シニア層の労働力化等が社会的課題となる。外国人及び、
女性労働力の活用は諸外国と比較しても遅れており、大幅な増加策を検討す
べき時である。
一方、高齢者の労働力化(事実上の定年延長)については、これまで年金給
年齢との関係から議論されてきた。本来各人の状況は異なっており、実質定年
を政策的に決め、私企業や個人に強制適用するのは邪道である。長寿社会の到
来で、健康で意欲溢れ生涯現役を希望する高齢者も多い。労働の自由、多様な
雇用契約、仕事に応じた報酬などの原則の下に、今後の改正は定年制度を廃止
する方向で議論されるべきである。労働力不足の状況は既に各所で生じつつ
あり、「働き方改革」も議論される中で、企業は年齢で縛るのではなく、
健康で、働く意思と能力がある個人を戦力として活用すべきであろう。
 一方、企業内は生産性を継続的に上昇させるためにも、スキルや「知」の伝承にもこれまで以上に注力すべきである。また、働き方やライフ・スタイルに中立的で、持続可能な公的年金制度を「社会保障推進法」の中で検討すべきである。

(3)シニア層の期待される社会での“居場所”
 政府は「高齢社会対策基本法」(1995年)に基づき、高齢社会対策大綱
(2001年12月閣議決定)において、以下の6つの基本的な考え方を示した。

・「高齢者」の捉え方の意識改革
・老後の安心を確保する社会保障制度の実現
・地域力強化と安定的な地域社会の実現
・安心・安全な生活環境の実現
・若年期からの「人生90年時代」への備えと世代循環の実現
・社会参加と学習
いずれも重要な項目であるが、ここでは「高齢者」の社会参加と学習がその他の項目とも関連して重要であると考えられるので言及したい。高度教育が普及する日本社会においては、「高齢者」の知識欲は旺盛で、近年自治体や大学が主催する社会人教育は、地域社会で展開されている趣味・教養を目指したカルチャー・センターなどと並んで拡大・充実しつつある。大学は、少子化時代を迎え一般学生が減少する一方で、社会人を新しい顧客として取り込もうとしており、今後ますますこの種のり組みは拡大し、競争による質の向上、サービス内容の充実が期待される。
現在開催されている社会人教育の中で成功している一つの例として立教大学の「立教セカンド・ステージ大学」があげられる。50歳以上の学生を対象に、“学び直し”と“再チャレンジ”をコンセプトにした仕組みで、まさに「人生100年時代」に備えた先進的な試みである。大阪府の財政悪化から橋下元知事の下で、大阪府老人大学が整理の対象となったが、その後関係者の懸命な努力で鵜受け座としてNPO法人大阪府高齢者大学校が設立され、現在行政の資金支援なく自立しているという経緯は特筆に値する(2017年度の経常収入は1憶6,525万円、2018年7月現在の授業科目65,受講生2,700人強とのことである)。このような社会人教育の場を通じ、単に教養や知識を満足するばかりでなく、シニア層がどのように積極的に社会参画に関わり、地域社会を再構築できるかが今後ますます重要になる。シニア層が「支えられるのみならず、支える側に転じ」、「学習から行動へ」、そして「社会貢献活動」に目覚めるとき、市民社会の更なる発展への期待が持てる。有償であれ、無償であれ、長寿社会では高齢者が社会での居場所を持ち続け、個人個人の健康に配慮しながら、生涯現役社会を実現することが自己実現できる秘訣でもある。
ところが実際には、これまで終身効用制度の中で企業戦士として活躍してきた人たちにとって早期退職して再チャレンジするケースを除き、65歳で退職してからボランティアや社会貢献の道を歩み始めるのは組織文化の違いもあり、かなりハードルが高い。個人個人が自分の将来を見つめ、企業に在籍中にボランティアや社会貢献(例えばプロボノ活動など)を体験し、現役時代に退職後の社会参加の準備期間を持つことが必要である。企業内で自社のシニア層を対象に「気づきゼミナー」を企画することなども考えられる。

(4)NPO法人プラチナ・ギルドの会の挑戦
シニア層が核になって各種サービスを提供するNPOの数も昨今増加して
きている。例えば、メーカー経験者が中心になり、小・中学校で出前技術支援授業を行ったり、大手製造業の退職者が中小企業向けに技術支援を提供したりするなど、シニア層の社会貢献の活動領域は広がりつつある。しかしながら、60歳、65歳で企業を定年退職した後に突然社会デビューを果たそうとしても、NPOの組織文化は一般企業の文化と異なり、なかなか簡単に社会参画できない。
そこで、プラチナ・ギルドの会は、2013年11月に一年以上の任意団体としての活動実績を踏まえてNPOとして法人化し、シニア世代が社会貢献活動に参画しやすい仕組み作りへの永続的な挑戦を始めた。この会はこれまでビジネスの世界にいた人たちが中心に集まり、夫々関心のある分野でボランティアや社会貢献をしつつ、毎月一回の例会の場を通じて相互に学び合い、また、これから退職してくる後輩たちに社会デビューへの道筋を示したいと考えている。単なるシニアの居場所づくりに留まらず、NPOとして継続的事業展開を始めるため発足と同時に事業として、社会で裏方として活躍するシニアを顕彰し、同年代や後輩たちに模範(ロール・モデル)を示す、プラチナ・ギルド アオードを実行中である(2018年2月には第5回プラチナ・ギルド アワードの表彰式を開催、6名の方を表彰した)。また、既退職者や50代、60代の企業内シニア向けに、2017年1-2月の土曜日に座学とNPO研修等を組み込んだ、第二回プラチナ・ギルド アカデミーを実施した。終了後は、NPO法人サービス・グラントと共催し、NPOとNPO法人のために理事や、顧問、事務局などで働きたいと考えている人材のマッチング事業(ボード・マッチ)を実施した。二回のボードマッチを通じ、成果も明らかとなってきたので、今後とも継続的な活動としたい。
また、大手企業の企業内シニア向けテーラーメイドの“気づきセミナー
”を実施することも予定している。さらにアドボカシー(広報・啓蒙)事業を開始し、これまでのアワード受賞者や当会の関係者で社会貢献活動に従事中の人たちを広く社会に周知するための「プラチナ応援サイト」というホーム・
ページを新設した。この新しいHPには、中央区の防災ラジオでもある中央FMで毎月一回20分の「プラチナ・スピリッツ」番組内で収録した受賞者インタビューをアーカイブとして掲載している。2018年7月現在約80名の会員(内、約半数は現役)を擁しているが、中間支援型のNPOを目指すと同時に、NPO法人サービスグラントと協力して、現役時代に培ったスキルや経験を活用した「シニア版プロボノ」プロジェクトの開発も視野に入れている。また、シニア層が社会で活躍する居場所を提供し、世代を超えた交流を通じて市民活動が活性化することを展望したい。

4 イギリスの「新しい公共」

次に、イギリスにおける社会的起業やそれに関する政策について考察を行う。
イギリスの取り組みは様々な面で先進的であり、日本にとっても参考になるものが多いと考えられる。最終節ではイギリスでの経験の含意も踏まえつつ、日本の進むべき道について考察したい。

 (1)イギリスの社会福祉政策の変遷
イギリスは西欧先進国の中でも最も社会福祉政策の充実した国といわれてきた。「ゆりかごから墓場まで」という言葉に象徴されるように、1960年代までは行き届いた高福祉社会を実現していた。ところが、労働党政権下で、働運動の激化、低成長、財政の破綻等から、1960年代後半にはポンド危機を引き起こし、「英国病」と揶揄される時代に突入した。
その後サッチャー政権(1979-1990)の大胆な新自由主義的改革により「小さな政府」即ち、民営化と規制緩和、減税策、民間活力の利用が進められ1980年代の後半から経済は成長軌道に乗った。サッチャー路線を引き継いだメジャー首相に担われた保守党政権下では、強力な健全財政政策を追求するあまり社会保障や医療関係費は大幅に抑制された。
1995年5月、18年ぶりにブレア首相率いる労働党政権が誕生する。ブレア政権はこれまでの労働党左派の理念を捨て、脱社会主義政策(保守党に近い政策枠組み)と福祉国家の現代化、即ち、市場の効率と社会主義・平等を目指す「第三の道」を歩み始めた。本節をイギリスの「新しい公共」と題したのは、わが国の鳩山民主党政権下で推進されようとした「新しい公共」をもじったものであるが、当の民主党政権崩壊により日本では進捗が見られなかった。
「第三の道」でブレア政権は従来の労働党左派が主張した国家財政による手厚い社会福祉政策から脱却し、弱者救済と雇用創出することによる、新しい社会福祉政策を模索した。すなわち市場の効率化と社会主義・平等路線を打ち出した。
 2010年5月の総選挙により13年ぶりに労働党政権から、保守党と自由党の連立内閣が成立、第一党である保守党の党首、デービッド・キャメロンが新首相に就任した。労働党政権下で財政状況は悪化し(財政赤字はGDPの11.5%)、連立政権は最重要政策として、税制改革と歳出削減に取り組むこととなった。連立内閣は伝統的な福祉政策にも切り込み、「大きな政府」から「大きな市民社会」へ舵を切ることになった。キャメロン首相は自ら政府や自治体による福祉政策の効率の悪さを認め、国民に協力を呼びかけ、市民社会の活性化による多様な住民ニーズに代替することとした。大きな市民社会を目指して、NPOやチャリティー等の市民活動を活性化する手段として、国家主導によるボランタリー・セクター向け投・融資機関が設立された。The Big Society Capital(以下、大きな社会基金)の導入を決め、世界的にも新しい実験が始まっている。

(2)大きな社会基金(The Big Society Capital) について
サッチャー政権下の80年代中頃,ロンドン近郊の街で暴動が多発し、その頃から英国では企業は、学校、病院、教会などと同様、市民社会の一員としての自覚が芽生え始めていた。当時筆者はイギリス駐在中で、イギリス経団連(Confederation of British Industries)傘下の多くの企業がBITC(Business in the community )に加入し、社会貢献活動に積極的になっていたことを肌で感じていた。この団体のホームページには444社の会員企業名が列挙されている(2018年7月現在)。BITCへの往訪を含め、NPOの中間支援組織であるCan Mezzanine、オックスフォード大学の社会起業家教育施設であるスコール・センター等を訪ね、イギリスのボランタリー・セクターについて基本的認識を深めた。
その後、筆者はロンドン・オリンピックが開催された、2012年夏、英国に約一か月滞在し、英国の市民セクター(NPOやチャリティー)について勉強する機会を得た。丁度、日本でNPOサービス・グラントの特別顧問に就任し、欧米諸国での市民活動の在り方に興味を持っていたのがきっかけとなった。
翌2013年春にアショカ・サポート・ネットワーク(ASN)のロンドン国際会議に参加するため英国出張し、新設の大きな社会基金・本社の社長室(Company Secretary )を訪ねた。シティーに事務所を構える真新しい組織で、投融資実績もまだまだ限られてはいるがこれまでの経緯と活動について簡単に触れておきたい。
大きな社会基金http://www.bigsocietycapital.com/about-us/(2/6/2014)設立の目的は政府や自治体による公共サービスに代替・補完し得るものとして、
市民活動を重視し、資金面で支援することにより、市民社会の持続可能な活動を担保することにある。2000年にゴードン・ブラウン大蔵大臣の下でSocial Investment Task Force(社会的投資の研究会)が設立され、2005年にはロナルド・コーエン氏の下で銀行の休眠口座(15年間動きのない預金口座)の活用について政府から独立した調査委員会が設立された。2007年に独立調査員会は休眠口座の資金を公的部門(social sector)で利用することを勧告、2008年に休眠口座の活用に関する立法が成立した。そして、2010年には政府が社会的投資をするための仲介銀行設立を決定、2012年4月に「大きな社会基金」が設立された。
資本金は600百万ポンド(約1,020億円)、その内訳は400百万ポンドが休眠預金、200百万ポンドが大手商業銀行4行、バークレー、HSBC、ロイズ、RBCが、各50百万ポンドを出資)となっている。
特徴としては、資金は全てNPOやチャリティー等のボランタリー・セクターに融資または投資される。投・融資は市場から同額のマッチング融資を条件に、また融資は中間支援団体を通じて実行される。貸出対象先を熟知しているセクター内の中間支援団体経由することで、審査を容易にすると同時に貸出金の不良化を極力避けるよう配慮している。

(3)「社会的企業」について
2006年6月, 英国政府は会社法の概念を拡大し、ビジネスの手法を活用して社会に貢献する企業、「社会的企業」(CIC、Community Interested Company)
https://www.gov.uk/government/organisations/office-of-the-regulator-of-community-interest-companies(2014.6.2)の法人格を新設した。CIC監督庁が所管し(前述HPを参照のこと)、CIC企業の認定を行う。申請に当たっては定款に社会貢献活動を明記させ、商業的活動で上げた利益を社会に還元することを確認している。配当や役員報酬は認められるが、一定の制限が課せられる。特段の税制上の恩典はない。現在、チャリティー、NPOは60,000件以上存在するが、2013年時点でCICの累計認可件数は3,572件となっている。
イギリスでCIC制度が出来るとほぼ同時期に韓国でも同様の法整備がなされ、「社会的企業」が活動を始めている。「社会的企業」は社会的課題を解決するという点では、政府や自治体と同じ目的を共有するが、官僚機構の非効率性に比し、民間ビジネスの手法を導入することにより民間部門の経営感覚で社会問題の解決に挑戦し、同時に企業として利益を上げることにも成功している。
具体的な事例として、CIC企業のチャンピオンでもある、HTC Group(Hackney Community Transport Group)http://www.hctgroup.org/about_us(2014.6.2)のDai Powell OBE(CEO)を訪ね、会社経営の実態について聴取した。 同社は1982年Hackney地区にあった30の社会的弱者向け交通サービスのボランティア団体が合併して出来た。2001年に、ロンドン交通局からロンドン・バスの運営委託契約を獲得(現在ロンドン赤バス全体の1%のシェアーを有する)し、この事業収益を社会的弱者(障害者など)の送迎サービス事業にまわしている。同社の法人形態はチャリティー財団ながら、東西ヨークシャー等その他地域の同種サービスを合併、傘下にCIC企業を有する。
2013年3月期の売り上げ規模は37.6百万ポンド(約64億円)で、社員は800人、保有車両は500台、着実な成長を遂げている。2011年度末には、高齢者などの低料金バスの受益者は66,000人、障害者向けの個人交通サービス提供は230,000回、ジョブ・センターでの新規就業者数は76名と実績を上げている。
同社はロンドン・バスの運行については競争入札で受託契約を獲得しており、他の競争相手の私企業と全く同一の競争条件の下にある。CEOの説明によれば本人の報酬も含め、同社の社員は世間並みの給与を得ているが、CIC企業であるという事実に誇りを持ち、収益の一部が社会貢献活動に回されていることが社員に意識変革をもたらし、効率的な会社運営に繋がっているという。また、大きな社会基金からも資金支援を受ける予定で、効率的な運営からロンドン以外の地域でも拡大を続けている。一般民間企業のようにチャリティーやNPOが買収資金を大きな社会基金から融資を受ける日も近いとのことであった。

(4)市民社会を育てる社会的インフラとしての中間支援組織
大きな社会基金を論じた際、支援資金の仲介機関として中間支援組織の存在が重要であることに触れた。具体例として、チャリティーやNPOに事務所を提供し、各種の支援活動をするCan Mezzanineと、社会起業家、起業家を支援し育成するオックスフォード大学のスコール・センターを往訪したので合わせ報告する。
Can Mezzanine、 http://can-mezzanine.org.uk/(2014.6.2)は1998年にイギリス政府の支援を受けて設立されたチャリティー機関で、NPOやチャリティーに対して市場価格より安価な活動の場所(拠点・ハブ又はクラスターと呼ばれる)を提供し、多くのNPOの為の共同オフィスとなっている。また、同時に活動のためのノウハウや、営業・資金支援も行っている。イギリスには6万件を超えるボランタリー企業が存在するが、新規設立の「社会的企業」も多く、ハブ(又はクラスター)の存在意義は大きい。これらのハブやクラスターはロンドン市内に数カ所存在し、地方都市にも波及している。また、ヨーロッパ各地、アジアの主要都市にも広がりつつある。最近日本でも初めてハブ・東京が目黒区に設立された。http://hubtokyo.com/(2014.6.2)
オックスフォード大学のサイード・インスティチュート内に設立されたスコール・センターはイーベイの創業者スコール氏の資金支援で設立された。同研究所は起業家・社会起業家支援のための研究機関で、起業家、社会起業家の別なく、イノベーションをどのように活用し、起業するかに重点が置かれている。研究所内にEmerge Venture Lab.を持ち、事前にビジネス・モデル自体の試験に合格した若き起業家たちが学内・外の協力を得て、新規事業を立ち上げている。同大学では社会的起業の社会に与える非金銭的価値、社会的影響(Social Impact)等の計測手法などを研究し、社会的投資の判断基準となるべき学問的研究を行っている。これらの手法は「社会インパクト債券」(Social Impact Bond)に対する投資判断基準等にも応用されることになるであろう。

(5)「社会インパクト債券」について
 2013年6月にロンドンで開催されたG8サミットにおいて、主催国であるイギリスのキャメロン首相は「社会的投資市場」がグローバル化してきた事実に着目し、これをG8の主要テーマとして取り上げた。社会的課題を解決する目的で発行されたSocial Impact Bond(SIB 社会的インパクト債券)はこれまでインドなどの開発途上国の所得水準を改善する目的で一部の企業がBPOビジネスに関連して発行されてきた経緯がある。イギリスでは2010年に初めて国内で開発され、2014年4月までに受刑者再犯防止、ホームレス社会復帰、児童養護等世界で20件以上の実績がある。
2012年にロンドン市と地方自治省が共同でSPV(特定目的会社)を設立、発行した期間4年の社債,200万ポンド(約3.4億円)のケースでは元本保証はなかったが、事前に定義された事業の社会的成果に応じて、ロンドン市が元本とリターンを合わせ、最大500万ポンド(8.5億円)の支払いを保証する。事業の対象となったホームレスの内、路上生活から定住し社会復帰を果たした人の割合により投資リターンが変動する仕組みになっている。2010年に発足したキャメロン連立内閣は4年間で810億ポンド(約14兆円)の予算削減を約束し、政府は財政健全化の途上にあり、財政圧迫から民間資金によるSIB発行に踏み切った。ロンドンにおけるホームレス対策の行政コストはホームレス一人当たり5年間3.7万ポンド(630万円)で、11%程度のホームレスが社会復帰できれば投資効果が出ることが試算されている。イギリスでは各種の社会課題に民間資金を投入する、インパクト投資(Impact Investment)の手法による社会変革(Social Innovation)に期待が持たれている。
同時に、インパクト投資の分野は米国やオーストラリアなどでも自治体が発行するほか、開発途上国の発展に向けたBOPビジネスでも取り上げられつつある。欧米ではインパクト投資に興味を持つ企業(イギリスのシアソン・グループやフランスのダノン・グループ等)や個人の富裕層も増加してきている。日本でも2014年、ベネッセが1,500万ドル(約15億円)のインパクト投資ファンドを組成したことが報じられている。前述の「大きな社会基金」制度に合わせ、財政が逼迫している日本の自治体でも大いに検討の余地がある。

5 日本社会が進むべき方向について

 日本では超高齢社会を迎え人口減少が始まり、経済は低迷し、そして福祉政策に制度疲労が顕在化してきた。こうした中で日本社会が向かうべき進路について考えてみたい。
 まず、日本の当面の課題を考えてみよう。喫緊の課題として、休眠預金活用がある。2016年末に休眠預金等活用法が成立し、2017年5月には休眠預金活用等審議会が開催された。約1年間をかけ基本方針の策定、指定活用団体の決定(2019年春の予定)と事業計画等の認可が行われる予定になっている。本審議会での議論は「イギリスの新しい公共」にも関連し、日本において市民生活の健全な発展とそれを支えるシステムを構築する上で、重要な分岐点であると考える。
 次に企業のあり方、そして企業と従業員(社員)の関係がある。日本ではこれまでの修身雇用制度や定年制度の下で企業と社員の関係が歪められてきた。「働き方改革」などでも議論されてはいるが、これを正常化していく必要がある。
 最後に、これまでのプラチナ・ギルドの会の活動を通じて筆者が感じてきたこととして、超高齢化社会の中で益々大切になると考えられる、共助、助け合い、地域コミュニティーの育成等「ソーシャル・キャピタル」の醸成の重要性を強調しておきたい。
 
(1)何故イギリスから学ぶのか
かつて日本は明治維新の大改革で、イギリスの議会制民主主義の政治体制を学び、その後もイギリスの諸制度を導入、イギリスから多くを学んできた。今日本は超高齢社会の到来で経済は成長力を失い、国家財政は破綻をきたしつつあり、多くの社会的課題を抱える「課題先進国」となった。如何なる国家も多くの課題を抱えている点では同様ではあるが、それらの社会的課題に対し具体的に実現可能な対策を講じているかが問われている。
2017年にメイ首相はBREXIT(Euからの離脱)交渉を有利に展開するために強力な政治基盤の樹立を目指し選挙を主導した。ところが、逆に保守党は政権基盤を弱める結果となり、北アイルランド民主統一党と連立政権を樹立し与党としてかろうじて過半数は抑えたものの、メイ首相失脚の可能性すらある状況になった。イギリスはサッチャー政権以降、いかなる政権下でも自主権の
確保には固執しており、通貨統合にも加わることを拒否してきた。余談は許さないが、これから厳しいBREXIT条件交渉でイギリスが困難な局面に直面するとしても、一方のEU諸国の連携もまた苦難の道を予見せざるを得ない。したがって、交渉決裂(ハード・ブレグジット)も否定しないが、離脱後もイギリスとEUの関係が、双方にとって致命的な結果をもたらすと想定すべきではないであろう。
 アメリカ社会に学ぶ点ももちろん多いが、歴史と固有の文化、島国という国土的均質性、社会基盤や構造、、保守的な国民気質等から、今一度わが国は謙虚に、最新のイギリスの挑戦を学び、財政支出に依存した官主導の福祉政策から大きく方向転換し、強い市民活動の育成によるボランタリー経済を強化する為のインフラを制度設計するべきである。将来イギリスで労働党への政権交代の可能性は残るが、労働党左派の政権は別として、ブレア政権の福祉政策も保守党と近く、「新しい公共」の考え方には大きな変化はないものと思われる。ボランタリー・セクターを強化するためのハブやクラスターの新設や、政・官・学と市民社会が協力し、社会起業家を輩出するインフラ、また、その指導者を養成する仕組み、公共セクターと民間セクターが平等の立場でパートナーシップを組む、「イギリス・グラウンド・ワーク」による地域創生活動等、「イギリスの新しい公共」に学ぶべき点は多い。

(2)休眠預金活動法案
 休眠預金の活用については日本でも長らく議論され、イギリスや韓国にける先進的な事例研究もある程度進んでいる。日本の金融機関に眠る休眠預金
(10年間移動なく、「休眠」と定義される預金口座)は年間約1,000億円といわれる。今後10年経過後の休眠預金は預金保険機構に移管され、預金者から請求があれば支払いが行われる。最終的に請求されない休眠預金は控えめに見ても半分程度、約500億円とみられている。本法案成立により、制度設計が終了すれば公益に資する活動(法第17条)に基づきNPO法人などの公益セクターで活用される。詳細制度設計はこれからの審議会の議論を待たざるを得ないが、資金の活用は資金分配団体を通じて2019年秋ごろから民間公益活動を行う団体に対し、助成、貸付、出資が開始される予定となっている。
 前述のようにイギリスの休眠預金(預入から15年を超え請求されない預金)の活用は「大きな社会基金」が担っているが、日本では指定活用団体がその役割を果たすことになる。重要なことはイギリスでは転貸機関は公益セクターを熟知したプロフェッショナルな中間支援機関で、最終支援を受ける公益団体に対しては原則、貸付金(3-5年)または投資(7-10年)を行うのみで、助成金を支給することは原則想定されていない。また、融資に際しても最低融資額の100%以上の民間協調融資(コー・ファイナンス)が条件となっている。日本における立法過程でも休眠預金が安易に利用されないように、資金が活用されるセクターを法第17条で限定していること、また、ソーシャル・イノベーションや社会的インパクト評価の手法を利用し、助成や融資・投資の経済的・社会的効果を判断基準にしていることは評価に値する。
 日本で休眠預金等活用法案が成立したことは誠に素晴らしいことであり、制度設計には大きな関心を有している。個人番号制度の導入と普及で、日本の休眠預金の金額が今後大きく減少することも考えられるので、この資金をイギリスの先例に習って、民間資金との抱き合わせで融資、投資する仕組みとすれば、これまで未成熟であった日本の公益セクターを革新する“起爆材”となる。休眠預金を単に助成金として「消費」するためでなく、この機会に日本でも「大きな市民社会」建設に向かって、大きな構想を練り、社会変革のための触媒として資金が活用されることを期待したい。

(3)これからの日本企業のあり方
 第4節でBITC(Business in the Community)の概念について述べたが、残念ながら一部の地方企業を除いて、日本の企業は地域の一員としての意識が薄い。経団連はBITCの活動を学ぶためにミッションを出しているが、いまだ具体的な動きは見られない。
 東芝、富士写真グループの最近の例にも見られるように、ガバナンスが弱い点も指摘されている。企業の社会貢献は、メセナ、フィランソロピーからCSR(企業の社会的責任)、ESG(環境、社会、ガバナンス)経営、そして現在SDGs(持続可能な開発目標)へとその領域が広がっているが、新しい分野への日本企業の認知度並びに企業行動への取り組みは、欧米企業比遅れているといわざるを得ない。2015年9月、国連はSDGs2030(ミレニアム開発目標を引き継いだ、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」)を採択した。即ち、2016年から2030年までの持続可能な(Sustainable)、開発目標(Development Goals)として国際社会の共通課題である17の目標と169項目の達成基準が盛り込まれた。
 人口減少社会を迎えた今、日本のグローバル企業は今後成長が見込める海外マーケットの市場開拓を急ぐべきである。とりわけ、アジア、アフリカ、中南米等の開発途上国のマーケットを開拓しBOP(Bottom of Pyramid)に取り組むことが期待される。最近の科学技術の進歩(IOT、Cloud Computing、AI、Fintech)において欧米先進企業に後塵を拝していることも懸念される。
 企業文化・風土、慣習等の後進性から、労働市場が極度に人材不足になりつつあるにもかかわらず、優秀な外国人経営者を呼び込めず、優秀な留学生を採用しても定着率は低い。働き方改革が議論されているが、年功序列や定年制度を廃止し、成果に応じた給与の仕組みを導入し、随時採用も含めたような人材をフレキシブルに活用していくことを検討すべきであろう。労働市場は今後需給の関係から流動化が進み、優秀な人材から順番に働きがいのある(労働環境や、企業風土のよい、そして自分に投資してくれる)会社に移動していくことになるであろう。

(4)これからの個人と企業のあり方
 日本ではこれまでサラリーマンは就職ではなく、就社していた。即ち職種ではなく会社を選択し、企業内における仕事はローテーションで経験を積み、給与も年功給がベースにあった。企業と個人の雇用契約は一方的で、終身雇用者として企業は社員に対して事実上、肉体的にも精神的にも過大な要求をしてきた。サービス残業や、燃え尽き症候群などは明らかに企業と個人の片務契約に基づいている。勿論問題はサラリーマン側にもあり、企業に忠実で滅私奉公することが生涯所得を極大化すると想定していた。
 ところが近年、平均寿命、健康年齢が延伸し、年金支給開始が財政制約から繰り上げられ、法的定年は65才まで延長されることになった。しかしながら企業は激しい競争のなかにあり、企業内の労働需給の状況も一様ではない。本来雇用契約は年金制度等とリンクされるべきものではない。また、科学技術の進歩により、企業自体の平均寿命は今後短くなることが予想される。従って、終身雇用そのものの有効性も疑問視される可能性もある。
 一方、グラットン等(2016)が指摘しているように、平均寿命も健康年齢もまだまだ伸長する。個人の人生設計とそれを支え、生活を守るためには今まで以上に長時間働く必要がある。科学技術の進歩の成果と効率化により生産性向上が見込まれることから、リ・クリエーション(自分への投資)を惜しまない人は、より高い所得を得ることが可能であろう。逆に単純労働者は職場自体がロボットやAIにより取って代わられ、働き口すらなくなり、所得格差はますます増大する。

(5)NPO法人プラチナ・ギルドの会を通じて学んだこと
 課題先進国として、アジア諸国に先立ち超高齢社会を迎えた日本は政府自ら健康な高齢者の社会貢献のあり方について率先して検討し、推進する必要がある。支援を必要とする20%の高齢者のための福祉政策に加えて、80%の健康な高齢者が社会を支え、そのことにより益々生き甲斐を感じる長寿社会を創造する仕組みを検討すべきである。
一方、企業は地域社会の一構成員であり地域社会と共生している事実を自覚し、単に環境経営に注力するのみならず、地域活動に積極的に参画し、従業員を地域社会の貢献活動に従事させることを検討すべきと考える。
NPO法人プラチアン・ギルドの会では非力ながら、これらの社会問題に挑戦すべく、社会で活躍するシニアの顕彰や広報活動、そして既退職者や、企業内向けに長い人生の中で「次の自分」を見つけるための「気づきセミナー」等の活動に注力してきた。これまでの活動を通じて、活動の成果を徐々に実感し始めている。一人でも多くの元気なシニアが社会参画、社会貢献することは私たちの世代の「世代責任」であると考えている。企業OBは、自分が幸福な人生を歩むことは勿論であるが、健康である限りは、次世代の日本のために、そして地域社会のためにこれまで培ってきた経験やスキルを活用し、少しでも社会貢献活動に従事することが求められている。しかしながら、現実には自分自身の趣味や知識欲を満足されるための学習意欲は強いが、「学びから、行動へ」へのプロセスが弱いのも事実である。
「経営の神様」であるドラッカーが非営利組織は新しい社会の創造に役立つこと、NPOはチェンジ・エージェント(人のあり方を変える触媒)であると指摘していることは注目に値する。高齢者は健全な生活習慣とセカンド・ライフの充実を目指してほしい。コミュニティーの一員としてボランティアや社会貢献活動に従事することが、仲間づくりや、自己実現にも通じることになる。その意味で、退職後の社会参画は地域のソーシャル・キャピタルの増進と直結している。

参考文献
稲葉陽二(2011)「ソーシャル・キャピタル入門」中公新書
大守隆(2011)「ソーシャル・キャピタルのフロンティア」第3章 経済 ミネルバ書房
グラットン、リンダ・スコット、アンドリュー/池村秋訳(2016)「LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略」東洋経済新報社
藻谷浩介、NHK広島取材班(2013)「里山資本主義」角川書店
坂本治也(2010)「ソーシャル・キャピタルと活動する市民」-新時代日本の市民政治―有斐閣
シュワルツ、ビバリー/ 藤崎可香里(訳)(2013)「静かなるイノベーション」世界の社会起業家たちに学んだこと  英治出版
谷本監事(2002)「ボランタリー経済と企業」 日本評論社

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今年の「敬老の日」は9月17日(月)でした。共同通信社は毎年日本の各地方紙に「敬老の日によせて」の記事を配信しています。認定NPO法人プラチナ・ギルドの会の例会に参加された経験のある福祉担当の記者から「日頃考えているシニアのあるべき姿について書いてほしい」と理事長あて寄稿依頼がありました。

プラチナ・ギルドの会は、現役時代の経験やスキルを少しでも活用して、社会への恩返しをしようと提案していますので、その趣旨に沿った、ボランティアや社会貢献活動をしませんかとの呼びかけをさせていただきました。

先日担当の記者から各地方紙より同社に寄せられた掲載記事は少なくとも18紙ですとお送りいただきました。紙面の都合から掲載日は敬老の日前後に亘ります。

丁度、現在当NPOでは、社会で活躍してるシニアを顕彰する第6回アワードの公募中でもあります(期限は今月末)。同世代や続く世代のロール・モデルとなるべく応募してみませんか?応募はホーム・ページ上段のアワードメニューからお願いします。